残暑お見舞い申し上げます
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


 お気持ちの上は勿論のこと、住まいを含めての生活周辺に関しても、まだ何かと落ち着かぬところもあるだろに。東北を舞台に高校総体も始まり、日々の熱戦に会場は沸き。それを追うように、夏場の高校生といえば…の 夏の甲子園、全国高校野球選手権大会も始まって。今年もなかなかな猛暑の夏は、その合間合間に台風も2つ3つと次々とやって来るものだから。この時期にこうまで接近するなんて、やっぱり温暖化は進んでいるのですねと。仲のいいお友達同士での顔合わせをした先日も、いかにも憂いておりますと話題に取り上げたものの。

 「それよりも困りものなのが“ゲリラ豪雨”ですよね。」
 「こないだは“ゲリラ雷雨”って言われてましたよ?」
 「まぁあ、今年は雷までオプションでつきましたの?」

 湿気と高温から発した、急な上昇気流が生み出す積乱雲が、だが。あまりに一気に大量の水蒸気を抱えたがため、あっと言う間に飽和状態となり。真っ黒な雲がそのまま、タオルを絞るかの如くの やはり一気に、大量の雨を振り落とす…ところまでは、昔からある“夕立ち”と同じメカニズムなのだけれど。昔とは環境が異なる都心部では、道路も川もコンクリで固められ、水の逃げ場がないがゆえ、土砂降りになれば 堤防は決壊し、町は冠水に襲われるのが、もはや常態化しつつあるほど。降り方が昔とは違って尋常ではないからだというお声もあるが、その原因もまた都市部の亜熱帯級の高温化にあるワケで。

  ………といった、
  世間一般の、それも大人の方々が憂うることへは、
  話題にもよるとはいえ、
  まだ微妙に“他人事”というお顔にもなっちゃう、
  十代半ばのヲトメたちとしては

 「駅前の“ラフティ”のスムージー、
  新しいフレーバーはお試しになりました?」
 「あ、キウィメロンでしょう? 一昨日いただきましたvv」

 マスカットグリーンが爽やかで、さほど甘ったるくなくてキウィの酸味がバランスよくって。あらあら、マスカットグリーンはなくってよ。あ、そっか。メロンのお色と言えばいいところでしたわね。わたしったら いっけなぁいvv…なぞと、いかにも愛らしく世間知らずな会話を交わす二人連れが、快速の乗り換え、Q駅の駅前広場の一角に立っており。

 “…お。
 “かっわいーvv”

 片や、オレンジ色のタンクトップにメッシュのベストを合わせ、カーキブラウンのミニカーゴパンツがお似合いな。マーガレットのコサージュが飾られたカンカン帽をちょこりと乗っけた、ふんわり童顔なところがまた愛くるしい赤毛の少女と。それへと向かい合うのが、淡い金の髪を編み込みにし、濃色ベースに白いドットがちょいとレトロな、てれんとした地のデザインブラウスに、シャーリングタイプのフリルが三段切り替えに重なっている 黒っぽい透け地のミニスカートを合わせ。足元は焦げ茶のグラデュエイター・サンダルという、涼しげながらも軽快ないでたちをした、玲瓏透徹、大人びた顔容の白皙の美少女と。結構な陽射しとなってきた日向にて、時々白い手でお顔を仰ぐ仕草を見せつつ、それでもお元気な会話が途切れぬは若さの特権か。そうこうするうち、広場の時計が11時を告げ、それが合図であったかのように、幹線道路のあるほうから、最後のお一人が姿を見せたようで。

 「あ、久蔵殿。」
 「こっちですよvv」

 脇に紐が通っていて、丈の調節をしがてら、くしゅくしゅ感の出せるクロップパンツに、ストラップが足首を絞めるミュール風サンダルの組み合わせが、細くて長い御々脚を、ますますのこと引き締めて見せており。チュニック丈の更紗地のオーバーブラウス、前を開けてのジレのように羽織った中には、そちらにも編み上げ紐がデザインのそれとしてついている濃色のタンクトップという、マニッシュながらもガーリーな要素をちらりとまとったお嬢様。金の綿毛を街路樹が落とす木陰で濃淡まだらに彩られてのご登場は、特に遅刻という訳でもなかったものの、

 「久蔵殿、妙な“付け馬”が張り付いてますよ。」

 さすが、元幇間…だった記憶の持ち主だけあって、遊里に付きものだったものへなぞらえて。石畳の歩道をやって来た久蔵のその向こうを透かし見つつ、形のいい眉を寄せながらも粋な言いようをしたのが七郎次なら、

 「何だか堂にいってませんか?」

 こちらはあからさまに胡亂な奴ら扱いで、素人のストーカーにしては妙に落ち着いていると見抜いたのが平八で。誰ぞにか雇われた探偵とか? 何なら追い払いましょうか?とまで言い出す頼もしいお友達へ、細い肩をがぁっくりと落とした久蔵ご本人はといや、

 「………………いい。」

 そうと言いつつ、綿毛を揺すぶるようにしてかぶりを振ったので、構うなという意味だろう。だがだが、彼女にはめずらしくも か細い声音での言いようをする紅バラさんであり。日頃もそれほど声を張る人じゃあないが、それでも聞こえやすくも張りのあるお声のはずが、一体 何が気落ちの原因か、いやそれはその付け馬たちなんだろうけれど。あからさまに気落ちしていなさるのへ、あららぁ?と、ますます怪訝そうな顔になった二人。それへと、気が重そうなままそれでもお顔を上げた久蔵殿。ぽつりと呟いたのが、

 「あれは俺へのボディガードだそうだ。」
 「ボディ…って。」

 その身を危険から守るべく、周囲へ注意を払ったり、勿論のこと、何か異常事態が生じた折には身を張って対象を守り抜き、安全なところへまで移送するのが職務の護衛役…のことなんだろが。

 「それって、どうしてでしょか。」
 「つか、誰の方針なんですか?」

 そりゃあまあ。こちらの紅バラさんこと、三木さんチの久蔵殿は、東京を、いやさ今や日本を代表する超有名ホテルとまで言われている ホテルJを運営する大財閥、三木コンツェルンの主家の跡取り、次の長を担うとされているお嬢様で。正式な社交界デビューはまだだそうだが、バレエの世界で既に名を馳せてはおいで…ではあるけれど。彼女のご両親は、それは伸び伸びとという教育方針の下、徹底した放任主義で彼女を育てて来たはずで。それを“構ってもらえない”と拗ねることもなく、親御の方針のまま素直に真っ直ぐ伸び育った彼女でもあって。そんな親子が、今更、箱入り娘に何かあっては…という種類のそれ、仰々しいことをお構えになられるとも思えないのだが。

 「………まあ、聞かずとも判ることではありますが。」
 「あ、そうか。」

 ご両親ではないとなれば、後はもうあの人しかおらず。

 “そか、兵庫さんか…。”

 ですよねぇ。いましたねぇ、こういうことをしそうな大人。しかも、頭ごなしに決められたことへむっかり来た久蔵お嬢様が、そんなものは要らぬとムキになっての突っぱねることも…しにくかろう相手でもあり。無口ではあるが気が強く、曲がったことは大嫌いなお嬢様、クールな見栄えを大きく裏切り、逆鱗へ触れたなら烈火のごとく怒るほど気性が激しい彼女でもあるというに。意にそまないことへでも仕方がないのだと逆らえない相性なのだと、そしてそれは、仄かな恋心が為すことなのだと、

 “そこんところへ気づかないってのは、
  せんせえだっていい勝負の朴念仁だってことよねぇ。”

 誰といい勝負なのかは、まま この際おくとして。
(苦笑) 足元に落ちる短い陰へと話しかけるように、久蔵がぽつりとこぼした続きというのが、

 「…今日は予行演習なのだそうだ。」
 「今日は…って、じゃあ何時だか特定の日のための?」

 家人に持たされたか、ここまで乗って来た送りの運転手に渡されたのか。広げぬまま横様に握っておいでの愛らしい日傘を手に、細い肩を落としておいでのお嬢様。狙撃されそうな要人を招く晩餐会でもあるとか。いやいや、久蔵殿へ付けてるトコ見るとバレエの公演のほうでは? どこかの王女様が視察に来られるので、関係者にも怪しい接触がないようにと監視がつく、なんてのはよくある話。危険を背負って来るような来賓対象のバレエの公演でも予定されているものかと、そんな感覚で聞き返した七郎次だったのだが、

 「〜〜〜。(否、否、否)」

 やはり かぶりを振る久蔵であり、

 「そういった類いではない。」

 携帯のような端末で、恐らく写真を確かめ合っているのは、七郎次と平八の本人確認でもしているものか。それを、こちらさんも肩越しに眺めやった久蔵が続けて言うには、

 「兵庫がな、何度言っても行動をあらためないので、
  こうなったら危険の方が迫って来ぬようにという まじない代わり。
  最低限、夏休みの間は付けておくようにと母へも言っていた。」

 「う…。」

 手短な言いようだのに、前半部分だけでピンとくるだけの蓄積と…ついでに“自覚”もあるらしい 後の二人が、その瑞々しい表情を引きつらせてしまう。でもでも、いくらご令嬢な久蔵でも、ああまで仰々しいのをつけずとも。

 「まださほどお顔が指してはないのに、
  これでは“どこの筋の人かしら”っていう、
  あらぬ注目を却って集めませんか?」

 お顔もスタイルもちょいと目立つ級の、かわいらしい十代半ばの少女らが、白い額を寄せ合いひそひそ話し込んでる図は、なかなかに眼福ものの光景であり。おやと眸を留め、そのままついつい見とれるお人も少なかないが、その視線の中に、ダークスーツの男衆が収まると、途端に“わたしは不審人物じゃないですよ”と言わんばかり、姿勢を正してそそくさ離れて行くのがありありしていて。こうなることをば言いたかったらしい七郎次の傍ら、平八がそんな態度を見せた通りすがりの男衆らを見送りつつ、

 「……有り難いっちゃあ 有り難い、かな?」
 「う、う〜ん?」

 確かに、見知らぬ男性からの視線はあんまり有り難くはないので。それがさっさと去ったのは助かるかもで。あれれぇ? 困ったこととしてカウントしたかったのにねぇと、小首を傾げる彼女らで。街なかだというにどこの街路樹からか蝉の声もひとしきり降りしきり。暑さもあって集中しにくいこと この上ないと、お顔を見合わせただけで意を通じ合わせた初夏のお花畑三人娘。
(おいおい)

 「じゃあ、ラフティ?」
 「うん。」
 「……。(頷)」

 主語だけで頷き合うと、そのままたかたかと足早に、陽の高い中、駅前の広場を歩み始めたお嬢様たち(不本意ながら付け馬つき)だったりするのであった。





       ◇◇



 話題にしていたソフトで冷たいスムージーをそれぞれに注文し、スタンドバーという涼しい店内の一角に席を占めれば。護衛のお二方はこの暑いのに店の外にて待機をなさるらしく、ガラス張りの壁越しに姿が認められるのが、

 「……ウザイ。」

 ストローへ口をつけつつ、ぼそりと言い切った久蔵なのも 実は珍しい。財閥の御令嬢として、多くの大人から頭を深々と下げるほどのお辞儀を送られる側じゃああるが、日頃の彼女は決して傲慢なお嬢様ではなく。ただちょっと表情が薄くて、あんまりありあり笑う方ではないがため、クールな印象が強いだけ。そこへ加えて、お顔がビスクドールのようにすっきりと整っているので、愛嬌とは縁遠い“クールビューティ”などと言われつけてしまっているのであり。そんな彼女が、それもあの兵庫の手配した人へ対して、むむうとしかめっ面になるほど不機嫌さをあらわにしているなんて。付き合いの深いお友達二人にも、あまり覚えのないことだったりし。

 「でも…そういや、
  昨年の夏休み、ややこしい追っ手にあってますものね、久蔵殿。」

 あれはまあ、特殊なパターンじゃありましたが。そうでしたね、お見合い相手が脅迫されかけてたんでしたっけ?( 『
思いもよらない鬼ごっこ』参照 ) あの騒ぎのときに限らず、兵庫さんは特に、久蔵の身を随分と案じておいでなようであり。単に主治医だからという範疇を越えた、心配の仕方と叱り方だというの、見て知ってもいるだけに、

 「危険が寄って来ないおまじない、かぁ。」

 心配が嵩じてのこと、積極的に手を打った彼だってのも、まま判らないではないかなと。そんな感慨の下、平八がぽつりと呟く。あの一件だけは傾向が異なるが、それ以外の…彼女ら三人娘が関わった騒動とやらには、こっちの素性に関わりなくという代物だって結構あり。そして、ならばとわざわざ危険へ触らずにし、見過ごして回避出来たものも多々あったろう。だってのに、そういうのをついつい受けて立つような彼女らなのは、元は“さむらい”だった存在の転生人だという特殊な記憶を、同じように取り戻した身だったから。彼女らの間では頼もしさへ通じる“理解”なはずのそれだのに。

 「兵庫さんや五郎兵衛さん、勘兵衛様には、
  曾てのように扱うワケにはいかないってことらしいものね。」

 同様にそんな記憶を持ち合わせ、遅ればせながらに生まれて来、それぞれの傍らへ現れた彼女らが、通り一遍な女子高生じゃあないと判っておいでの、とある大人たちにしてみれば。そんな変わった事情込みで、色々と理解も寄せた上で…それでもやはり案じて下さってるばかりであり。曰く、

  ―― 何かあったらどうするのだ、まったくもって困った奴らだ

 行動力もあるのがこの際は恨めしい、活発なお年頃の女の子たち。美人で行動的で、態度も所作も人目を引くほど存在感にあふれ。事実、それぞれが身をおく世界では、一通り その名を馳せてもいる紛うことなき有名人。そんなこんなで、危険な事案が向こうからもやって来やすい立場でもあるので、せめてそこを防ぎたいとの言いようをした榊せんせえだったらしく。そんなこんなを、寡黙な紅バラさんから それでも要領よく引き出した白百合さんとひなげしさんが、再びお顔を見合わせて、

 「つまりは、
  純粋に久蔵お嬢様へと付けるおつもりのSPだってワケでしょうね。」

 開放的な夏だからとか、バレエの公演でいろんな思惑の大人があふれるところへ出掛ける機会が多いからとか、そういった付帯条件のせいではなく。お年頃となった久蔵お嬢様に何か間違いがないようにという、ただそれだけが目的の護衛であり。

 「うあぁ、それはまた…。」

 お顔をしかめた平八の声の後を継ぎ、

 「鬱陶しいことですね。」

 彼女の心境、すっぱり言い放ったのが七郎次なら、

 「まったくだ。」

 憎々しげに、しかもくっきり頷いてる久蔵お嬢様だってのも、なかなかの反応で。せめてお兄さんたちへは聞こえないように見えないようにしてあげなさいね。
(苦笑) ミドルカップの半ばまで減ったスムージーを、太めのストローでゆっくり掻き回しつつ、そろりと見返った肩の向こうには、一応は木陰に陣取ったボディガードさんたちが立ったままでおいでの様子が見えて、

 「でも、どうして男性二人なのでしょうか。」
 「単に腕っ節への感覚の問題じゃないでしょか?」
 「腕っ節への感覚?」
 「ええ。どんなに強かろうが女性を付けたら、
  万が一のことがあった折、久蔵の側が張り切って庇いかねません。」
 「……………。(頷、頷、頷)」

 おおう、そういうことか。奥が深いんだねぇ。澄まし顔で言ってのけた七郎次も七郎次だが、うんうんうんとあっさり頷いた久蔵も久蔵で。スリムなデザインの止まり木、カウンター・スツールを支える一本足へ、しなやかな御々脚をからませるようにしていた七郎次。感慨深い声になると、

 「それ故に、
  女性の警備員だと、信頼関係どころか、むしろ齟齬が生まれるかもしれない。」

 なんでそうなる、大人しく守られてて下さいなという事態が起きてののちに。護衛対象へも警戒の必要があるという、別口の緊張感を生んでいては世話はなく。

 「成程、そういうところは理解してんですね、榊せんせえ。」

  でもでも、まだちょぉっと甘くもあります。
  そうですよね。

  …???

 こらこら、なに企んでますか…と外野に思わせるよな、微妙に不自然な笑みを口許へと張り付けて“愛想笑い”を見せる白百合様とひなげし様だったのへ、これへはさすがに…当事者でありながらも、小首を傾げてしまった紅バラ様だったのだけれども……。






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帰り道サマヘ 素材をお借りしました 


 *またまた何か企んでおいでのお嬢様たちみたいで。
  選りにも選って進んで騒ぎを起こしてどうするか
  …ってなことにはならないでね。
(う〜ん)


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